roseに口づけを

愛島セシルに愛を捧ぐウェブログ

『ガラン版 千一夜物語 第一巻』を読みました

書いてる途中に書こうとしてたこと忘れたやつをなんとか日記にしました。
感想文なのにあらすじ書きすぎてもはやネタバレ。

ガラン版 千一夜物語 西尾哲夫 訳 第一巻

『ガラン版千一夜物語』特設ページ - 岩波書店

そもそもアラビアンナイトってなんなのか

っていう話はウィキペディアで読むと詳細がわかるんですけど、ここは私の日記帳なので、自分で確認をするためにこの本の巻末にあった解説を読んで覚えたことをざっくり書いてみます。

まず、この世にはアラビア語で書かれた物語がいくつもあり、その物語を集めて写本を作った人が世界に三人くらいいるらしいです。
その中の1人がアントワーヌ・ガランというフランス人学者です。
このガランがアラビア語の物語を集めて書いた写本を『ガラン写本』と呼び、そこからガランがフランス貴族向けに翻訳したものを『ガラン版千一夜』と呼ぶそうです。
ガランが集めた物語の題名はアラビア語では『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』といい、千と一つの夜という意味で、この言葉を英語訳したのが『アラビアンナイト』だそうです。

アラビアンナイトに入っている夜話の数は正確には分かっていませんが、アラビア語の古い記録で「千夜にわたって物語が続く」という一節があることから千一夜と言われてるようです。
1000日かかるくらいたくさんの物語を聞かせるよって意味かな?

第一巻の解説分を読んで私が覚えたのはだいたいそんな感じです。

アラビアンナイトへの印象が変わった

アラビアンナイトってどんな話?」と思ってインターネットで調べると、
「絶世の美女シェヘラザードが暴君の死刑を免れるために寝物語を聞かせる話」と説明されていたりします。
実際に読んだら、話が全然違いました。

王様が暴君になるまでの話『枠物語』

まず、千一夜物語を語り始める前に、
王様が一夜限りの妻を迎えては翌朝に死刑にするという法律を作り、シェヘラザードが王に対面するまでを描いた物語があります。
この部分の話のタイトルは、私が読んだ本では枠物語という名前でした。

枠物語は、シャフリヤール王とシャフナゼーン王という兄弟王について語るところから始まります。
後の暴君となるのは兄のシャフリヤール王です。

兄王は誰もが慕う素晴らしき王で、弟は別の国の王でした。
二人は仲の良い兄弟王でした。
といっても、二人の関係がこじれたせいで兄が暴君になるのではありません。

兄王が暴君になるのは己の好奇心のせいでした。
兄王が弟王の隠し事を暴いてしまったことがきっかけでした。

弟王は、自分が王妃に裏切られてしまい、王妃を斬り殺していたので、元気をなくしてしまいました。

そんな時、兄王に誘われて兄の王宮に出かけます。
そこで兄王も王妃に裏切られているのを目撃し*1
「世の夫の運命は皆同じだ」と悟って元気を取り戻します。

しかし、兄王からすると元気がなかった弟が一晩で元気になったように見えたので、不思議に思ってしまいます。
元気がなかった理由を聞かれた弟王は、自分の王妃の不貞を話します。
話を聞いた兄王は「そのような目にあうのはそなたくらいのものだろう」と同情してくれました。

しかし、自分の妻の不貞を知らない兄を不憫に思った弟王は、
兄王の王妃の不貞まで話してしまったのでした。
(そして二人で実際の不貞現場を確認します。)

王妃の不貞を知った兄王は、悲しみにくれて、
「国を離れて兄弟でひっそり暮らしたい」と言い出します。
弟王も「わたしたちよりも不幸なものを見つけたら帰国すると約束してください」と約束を取り付けた上で、お供することにしました。


そして旅先で兄弟王は、一体のジン*2に出会います。
そのジンは邪悪で恐ろしいジンであり、一人の美女を櫃(ひつ)に閉じ込めて連れ回し、自分の妻としています。

しかし、美女はジンの目を盗んで過去98人の殿方と性行為し、彼等に貰った指輪をコレクションしている女性でした。
兄弟王とも関係を持って計100人分の指輪を手に入れた美女は、
「男は女を抑えつけないほうがいいのです。そうすれば女は身持ちがよくなります」
と話し、ジンの元へ戻って行きました。

兄弟王は自分達より強い者(ジンは人ではないが)が自分達より不幸な目に遭っているのを目の当たりにしました。
恐ろしいジンですら女の奸智には勝てないのだとショックを受けた王達は、それぞれの国へと帰国します。


この一連の出来事がきっかけで、シャフリヤール王は「この世に貞淑な女などいない」と思うようになり、暴君となってしまったのです。
その変貌ぶりは、それまで王を褒め慕っていた国民が王を呪うようになったほどの変化でした。

王が一夜限りで妻を殺してしまうのは、二度と裏切られないよう殺してしまおうと考えてのことでした。
最初に殺した妻は王妃でした。
ジンと出会い帰国した直後に、シャフリヤール王は宰相に命じて王妃を縊り殺し、侍女達を自ら手にかけたのでした。


この『枠物語』を読んで、シャフリヤール王が可哀想な目にあっていたと知りました。
王様に対する印象が変わりました。
王様も妻に裏切られるのが怖いんだなと思いました。
暴君とだけ聞くとどうしようもない悪人のようですが、生まれつきの暴君の話じゃないんだなと思い、少し同情しました。

美女シェヘラザードの目的

暴君がどんな人なのかわかったところで、もう一人の有名な登場人物、美女シェヘラザードが登場します。
シェヘラザードは国中の娘達が殺されていくのを止めるため、自ら次の犠牲者に志願し、その結果、王の寝室で毎夜物語を語ることになるのです。


ちなみに、妃を死刑にする命令を出すのは王様ですが、実際に死刑執行するのは誰かというと、宰相です。
宰相は王の死刑を執行する役目を担っていましたが、罪のない娘達を手にかけることを嫌がっていました。

この宰相にも年頃の娘がいたのです。
自分の娘と年の近い女性を手にかけるのは辛いだろうし、家族がいつ犠牲になるかと気が気でなかったのだと思います。

ガラン版では宰相の娘は二人いて、その姉の方は特に優れた女性でした。
彼女は男にも肩を並べるほどの胆力と洞察力を持っていて、あらゆる学問に精通しており、今まで読んだ本は一字一句たりとも忘れることはないほどの優れた記憶力の持ち主でもあります。
哲学、医学、歴史、文芸などにも通じ、詩人にも劣らぬ詩才を備えたスーパーウーマンでありました。
この女性こそがシェヘラザードです。

シェヘラザードの最終目標は、王の凶行をやめさせて町の人々を救うことです。
宰相いわく、それは不治の病を治すような困難なことだそうです。
シェヘラザードは王様の心を変えることができるのか?というのもこの物語の見どころだと思います。

アラビアンナイトを「寝物語」と説明するのは不適切?

この本について「シェヘラザードが王様に寝物語を聞かせるストーリー」と説明することがあるようなのですが、
「寝物語」を辞書で調べると、その意味は「男女が同じ床に寝てする話*3」となっています。

しかし、ガラン版を実際に読むと「男女が同じ床に寝てする話」という雰囲気ではないように思いました。
シェヘラザードが王様を寝かしつけるために話しているわけでもありませんでした。

正確には、二人の寝室にディナールザードという女性(ガラン版では宰相の二人娘のうちの妹*4)も一緒に寝ていました。

どのような状況かと言うと、

王は、東方の習慣によって高い壇上にしつらえられた寝台でシェヘラザードと同衾し、ディナールザードはその下に置かれた寝台で一晩を過ごしました。

と書いています。
ディナールザードは気まずくないのかな?と思ってしまいました。


ディナールザードが同じ部屋に寝ることになったのは、姉から頼まれごとをしていたからです。
それは夜明け前に起きてシェヘラザードに話しかけ

お姉さま、もしおやすみでないのでしたら夜が明けるまでのひととき、楽しいお話をお聞かせください。

と言うことでした。*5

シェヘラザードは妹のために物語を語っているというていで王様に話を聞かせ、続きが気になる王様は死刑を延期することにする、という形式で話が進んでいきます。

つまり読者は、物語を通して語られる物語を読むことになります。
シェヘラザードが語る話の中の登場人物は例え話や昔話をよくするので、物語の中の物語の中の物語を読む場面が多いです。

読みながら、今は誰の話で何のために語っているのか?ということや、誰を説得するための例え話なのか?が分からなくなったりしました。
でも分からなくなっても例え話自体も面白いので、読み進めやすかったです。


また、各話は『第◯◯夜』として区切られているので、物語内で朝が来るタイミングでシェヘラザードの話は終わり、
毎夜 「王様が死刑を延期することにした」という内容の文が入って話が終わります。
この決まり文句と決まり文句の間にシェヘラザードの話す物語が挟まっている感じです。

決まり文句と言っても、日によってはディナールザードが寝坊して話す時間が短くなってしまったり、王様が続きが気になっている様子が描かれたりと、バリエーションが豊富で飽きませんでした。

シェヘラザードの物語が細切れになっているので、続きが気になりどんどん読み進められました。
読者も王様やディナールザードに近い気持ちで読み進めることができるようになっていると思います。

シェヘラザードは美女であるべき?

ぶっちゃけるとシェヘラザードが絶世の美女でなければ成り立たない物語かもしれないなと思いました。
何故なら、シェヘラザードが王様と対面した場面で

顔を見せるように言うと、彼女はたいそう美しかったので心を動かされ、その目に涙が光っていたので王は訳を問いました。

と書いてあり、この美しい涙をきっかけに、王はシェヘラザードの願いを一つ叶えることになるからです。

シェヘラザードの願い事は、ディナールザードを部屋に呼んで最期の別れをしたいというものでした。
この時、王がシェヘラザードの涙を見て心を動かされなければ、ディナールザードを寝室に入れることを許していなかったことでしょう。
そうすれば、シェヘラザードは物語を語れずに、一夜で死んでいたかもしれません。

でもシェヘラザードはキャラクター設定からして賢い人なので、なんとかして語ったかもしれないとも思いました。
ただの設定で終わらずに、優れた記憶力やあらゆる知識と詩の才能を持ち合わせているからこそ、面白く物語を話して聞かせることができていると思えるところが、この物語のすごいところです。


それから、シェヘラザードの美貌についての書き方も印象的でした。

ずば抜けた美貌にも恵まれ、揺らぐことない美徳が数多の美点を束ねていたのです。

この一文は、シェヘラザードがいかにすごい人かを説明するくだりの最後にあります。
ついでに付け加えたような書かれ方のようでいて、一番重要な要素とも言いたげな感じです。
シェヘラザードの美しい容姿は、彼女の数多の美点に説得力を持たせるための要素だ!ということらしいです。
美女だからすごいのではなく、すごい人でそのうえ美女だから文句なし!みたいな感じですね。
シェヘラザードはいろんな意味ですごい美女なのでした。

物語の内容と関係ない個人的な感想

私は読書に苦手意識があって、本を読む習慣がありません。
それなのに読もうと思ったのは、うたプリの愛島セシルというキャラクターが「アラビアンナイトに出てくる王子様のような」って言われていたので、アラビアンナイトに出てくる王子様とは一体どんなものなのかと気になったからです。

私は極力本を読みたくないと思っているからなのか、最初のページを読んだ時の印象で本の好き嫌いを決めてしまう癖があります。
最初のページで読みにくいと思ったら読むのを辞めたりもします。

私の印象だと世の中の本には、
文章が気に入らなくて読みたくない本、
言葉が難しくて内容が難しい本、
言葉は難しいけど意味がわかって面白い本、
読みにくいけど文学的に美しいことはわかる本、
読もうとすれば読めるけど内容が気に入らない本、
みたいな、いろいろな本があると思います。

『ガラン版 千一夜物語 第一巻』は、文章が分かりやすくて読みやすい本でした。

私は過去に図書館でアラビアンナイトを借りたことがありますが、その時は最後まで読めなかったです。
でもこの本は日本語訳が読みやすくて最後まで読めました。
それにガランの書き方が貴族の人向けに下ネタをカットする方針だったので、私の好みに合っていました。
すごく面白かったです!

あと読み初めのうちは、シェヘラザードが話し終わったら処刑されるのではないかという緊迫感がありましたが、
王様がシェヘラザードを気に入っているらしき記述*6が出てきてからは安心して読めました。
話を聞いている王様とディナールザードが楽しそうな描写がたまに出てきて、それも面白かったです。

シェヘラザードが話した物語の感想もいろいろ思いついたんですけど、全部書くと長いし、ネタバレしすぎると感想文ではなくなっちゃうと思ったのでやめました。

唐突にうたプリの話をする項目

それから、『ガラン版 千一夜物語 第一巻』を読むきっかけになった「愛島セシルに似た王子様が登場するのか」という話ですが、
一巻を読み終わった時点では似ている感じの王子様は出てきていません。
というより、作中の王子様や王様は顔立ちや髪の色などの容姿に言及する記述が少ないため、特定のキャラクターをイメージしにくいのです。
王子様に限らず、作中のキャラクターは、身分を判断するための服装の描写や、武器の有無、「片目に傷のある隻眼である」などの物語で重要な見た目の説明はされるものの、読者の想像力に任せるよう描かれたキャラクターが多いです。
なので、似ているキャラクターは登場していないと判断しました。
現時点ではうたプリシナリオライターさんがイメージしたアラビアンナイトの王子様がどの人なのか、よく分かっていません。

二巻以降も読んでみて、最終巻まで読めたら改めて思ったことを書きたいな〜と思います。

(希望ばっかりなので実行しないかもしれない)

*1:王宮の庭園で、兄王の王妃と侍女達と、変装した姿の奴隷の男達が性交渉するのを覗き見てしまう。

*2:魔人・妖怪・精霊のような、人ではない存在。王達にとっても自分達よりも強い存在である。

*3:pillow talkってやつ?

*4:妹なのか奴隷なのか乳母なのか、写本によって立場はあやふやであり、場合によっては名前もないらしいです。

*5:以降、これは毎夜の決まり文句となります。

*6:二十一夜の終わりに「シャフリヤール王はこの物語にすっかりひきこまれてしまい、シェヘラザードを愛するようになっていましたので、彼女の処刑を一か月先に延ばすことにしました。」と書いてました